◇◆◇ ようこそわが家へ ◇◆◇(掲載文をそのまま載せています)
家は最高の“あそび場”
居心地のよい家にするなら、それなりの努力が必要。
お仕着せではなく、自分が作り上げてこそ、心地の良いうちができるはず、でも、どうしたらいいんですか。
家を遊び場にして楽しんでしまう達人に、聞いてみました。
東京・世田谷の閑静な住宅街。 ここに洋画家・田村能里子さんの家はあります。
低層マンションの4階、エレベーターを降りると、いらつしや―いの声。田村さんが出迎えてくれました。
廊下のそこここにご自身の作品や、中国、東南アジアの置物が飾られて、さながら私的美術館のようです。
わーっ。リビングルームに通されて、思わず喚声が出ました。
50畳はあろうかという広さ。
そこに、それぞれしつらいの異なるテーブルが3つ。
中でも圧巻なのは、グランドビアノ型のテーブル。ビアノの脚をはずし、傷防止のゴムをかませてあります。
その上で、雛人形が出迎えてくれました。素敵な空間ですね。居心地もいい。思わず長居したくなります。
どうしたら、こんな雰囲気を作れるのですか。
田村さん、教えてくださ―い。
◇◆◇ 絵のキャンバスに、自由に描き込むように部屋を使っています◇◆◇
ホテルのスイートルームのようですね。見たまま、感じたままの率直な感想です。
「部屋にいて、いつも考えているのは、自分の好みって何だろうってこと。いいかえれば、
どんな空間が自分にとって居心地がいいかを考えることでしょうか」
もうひとつの部屋をアトリエにして、毎日毎日作品制作。
1日の大部分を、神経をすり減らす作業に追われています。
仕事を終えたとき、リラックスできることが画家には大切なんです、と田村さん。
「仕事では頭がカッカしているでしょ。だから終わったときには、その『カッカ』を静めるためにも、
ほっとできる空間が必要なんです」
ほっとできる空間作りのコツのようなものはあるんですか。
「広さを感じることができるようにすることですね。いろいろくふうはあるけれど、いちばんは、
背の高い家具をできるかぎり置かないこと」
なるほど、調度品の背が低ければ、天丼が高く感じられます。
グランドピアノの脚をはずしてあるのも、それが理由なんですね。ほかには?
「物を飾るにも、必ず自分の手を加えることかしら」
この部屋には、外国で買った物、お友だちに譲ってもらった物など、さまざまな物があります。
「たとえば、壁にかけてある布は、30年くらい前、インドで手に入れたもの。
古くなったけれど、布としてはとてもよいもの。
もう着ないけれど、壁に飾るには、申し分ない飾り物になる」
布だけではありません。
周囲に目を凝らすと、いろいろなアソビが見え隠れします。
たとえば、壁の照明の周りには、小さな木彫りのヤモリがいました。
観葉植物の茎には、カブトムシ。
大きなトランクが置いてあるなと思ったら、中にはテレビが入っていました。
「ちょっとしたくふうでいいの。大きめの布があったら、それをテーブルクロスにする。
でもただテーブルにかけるだけじゃない。
両端をプローチやリングで留めれば、それだけで雰囲気が出てきます。
テレビは部屋全体の雰囲気を統一するためにトランクに入れてしまいました」
さまざまな物が、何らかの縁で自分のもとに来た。
それをどう活用するかを考えることこそ、楽しみであるというわけですね。
「家でカレーパーティーをすることがあるんですが、そのときはたくさんのお友だちが来てくれる。
そのときの話のきっかけになればうれしいわね」
インドに長期滞在の経験がある田村さんのカレーはどんな味かしら……いやいや、そうじゃなくて、
自分が楽しめる空間は、同時にお客も楽しむことができるということでもあるんだな、と想像できます。
まさに訪れる人が楽しめるスイートルームならぬ、スイートホームなんですね、田村さん。
◇◆◇ かぎられた空間で一生暮らすのだから、
お仕着せでない「自分の空間」を作ったほうがおもしろいですよね。 ◇◆◇
リビングと並んで大切なのがアトリエです。
制作中の作品がいっぱいありました。
「仕事場としてこもる場所ですから、リビングとは別のしつらえにしてあります。
なにより集中することが大切ですから」
天井にスポットライトがあるのは、絵を浮き立たせるためでしょうか、独特の雰囲気が醸し出されています。
おや、部屋の真ん中に細長いテーブルがありますね
「これは、台に板を載せただけの移動可能なテープル。
思えば、この家にある家具は、移動可能なものばっかり」
遊牧民を描き続けている田村さん、季節に合わせて移動を繰り返す彼らの生活スタイルが
自然と身についているのかもしれません。
「テープルや屏風…すぐにたためて移動できる、ということはレイアウトを気軽に変えられるということでもあるんです
´気が向いたらちょこちょこ変えて楽しんでいます」
自分の本当の好みは何か、どうしたら楽しめるか、いつもいつも真剣に考えている人の生き方が見えてくるような家でした
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