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北海道新聞2010年6月13日掲載


      
      〈 友好の壁画 よみがえれ 〉
  四川大地震で損傷.。作者の田村さん修復

 JR札幌駅構内の壁画も手掛ける画家田村能里子さんが、中国陜西省西安で2008年の四川大地震で損傷した
 自作の修復にあたっている。日中の文化的きずなを描いた壁画「二都花宴図」(1988年)。
 田村さんは地元の求めに応え、友好を象徴する作品の再生に力を注ぐ。
 (中国・西安で佐藤千歳写真も)

  田村さんは愛知県出身、東京在住で、日本の壁画制作の第一人者。
 現在は、7月上旬にJR札幌駅に完成予定の壁画を制作している。
 その作業の合間を縫って、西安を訪れた。
 作品は、西安のホテル「唐華賓館」のロビーを飾る縦1.6メートル横60メートルの大作。
 奈良時代の日本と唐、シルクロードの人物像群をアクリル絵の具で描いている。
 四川大地震で約30本の亀裂が入った。

  田村さんは高さ約4メートルの足場で修復作業にあたる。
 22年の歳月で変化した色を再現し、亀裂を一つ一つ埋める。
 「修復していると、絵を描いたころを思い出します」と話す。

  壁画は、田村さんの中国留学歴を知ったホテル経営者の依頼で制作。
 夏は気温40度以上、冬は氷点下10度以下の環境で1年半を要した。
 しかし「勉強させてもらったから」と制作費を受け取らなかった。
 日中の交流誌を描いた作品内容と無償制作の逸話は、広く知られるようになった。
 翌89年の天安門事件で中国は国際的に孤立したが、先進国の中で日本が最初に交流を再開した。
 これを重く見た陜西省は、田村さんに記念賞を授与。
 作品は日中友好の象徴とされ、92年訪中した天皇陛下一行も視察した。

  地震による損傷の後、ホテル張泰生営業部長が田村さんに助言を求め、応急処置を施した。
 田村さん8日に西安に到着した後も、張さんらが交代で作業を手伝う。
  22年前とはホテルの様子も変わった。
 05年の反日デモや金融危機で日本人は減り、国内客と欧米人が増えた。
 それでも壁画の魅力は変わらない。
 パレットを手に田村さんは話す。
 「私は絵描きだから、口ではなく絵で日中友好を実現したい」





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